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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和33年(う)202号 判決

被告人 林一郎

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金壱万五千円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

第五点(事実誤認)について。

併し原判決挙示の証拠を総合すれば被告人は弁護士でないのに、報酬を得る目的を以て業として原判示第一、(一)(二)記載の日時及び場所において、それぞれ村本正三並びに樋爪庄吉外十五名のために法律事務たる原判示各民事訴訟事件につき弁護士中村領策を訴訟代理人として周旋し、以て法律事務の周旋を業としたものであることを認めることができる。弁護人は「被告人は弁護士中村領策に対し電話にて訴訟事件を代理されたい旨連絡したにすぎないのであつて、本件において被告人が一定の法律関係成立に導いた周旋をなしたこと及び其の周旋を業として反覆累行したことの証明はいずれも不十分である」旨主張する。併し(一)弁護士法第七十二条にいわゆる訴訟事件の代理の周旋とは申込を受けて訴訟事件の当事者と訴訟代理人との間に介在し、両者間における委任関係成立のための便宜をはかり、其の成立を容易ならしめる行為を指称し、必ずしも委任関係成立の現場にあつて直接之に関与介入するの要はないと解すべきであるから、所論の如く当事者たる村本正三又は樋爪庄吉等の申込を受けた被告人が弁護士中村領策に対したとえ電話連絡を以て右当事者の訴訟事件の代理を依頼した場合であつても同条にいわゆる周旋に該当するものと解するを妨げず、(二)又同条にいわゆる「業とする」とは継続して行う意思のもとに同条列記の行為(本件においては周旋)をなすことを謂うものであつて、具体的になされた行為の多少は問うところではないと解するを正当とする。本件において検察官に対する中村領策の昭和三十二年七月二十九日附供述調書によれば同人の供述として「十、私が林の紹介で委任を受けた民事事件について申し上げます。昭和二十九年頃村本正三が藤井治佐久から損害賠償の訴を起されたので其の頃私が高岡へ来た際に村本が林と共に弁護士会へ来て同人から林の紹介で其の委任を受けたのであります。十一、昨年七月頃と思いますが、林が私方へ来て高岡市が買収して礪波製紙株式会社に提供した高岡市二塚の土地について登記をするため、前の登記が誤つてなされているので其の登記抹消の訴訟を起さなければならない(中略)ということでありましたので私は法廷に出るだけのことを引受けたのであります」なる旨の記載(記録三百七十丁裏)が認められるのであつて、之と原判決挙示の各証拠を総合すれば被告人は原判示の村本正三及び樋爪庄吉等の申込を受けて、これらの当事者と弁護士中村領策との間に介在し両者間における原判示各訴訟事件代理の委任関係成立のため便宜をはかり、之を成立せしめた事実が明らかであるのみならず、被告人の周旋行為は前認定のとおり前後二回にすぎないけれども、被告人が継続して行う意思のもとに周旋をなしたものであることは古川宇三郎、村本正三、福沢覚三及び被告人の検察官に対する各供述調書により之を認めるに十分である。よつて事実誤認の論旨はいずれも理由がない。

第三、四点について。

原判決によれば所論のとおり原審は原判示二個の周旋行為に対し刑法第四十五条前段を適用し、且つ更らに同法第四十七条を適用して被告人に対し罰金弐万円を科したことが明らかである。併し弁護士法第七十二条所定の行為は営業犯の一種であつて数回繰返すも之を包括して一個の犯罪として処断すべく、之に対し併合罪に関する規定を適用すべきものでなく、且つ罰金刑を以て処断すべき場合に、懲役刑に関する刑法第四十七条を適用すべからざるものであることは言う迄もない。

原判決は法律の解釈適用を誤り、ひいて理由にそごを来したもので、かかる誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条第三百七十八条第四号後段に則り原判決を破棄し、同法第四百条但書に従い当審において自ら判決する。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判官 山田義盛 沢田哲夫 辻三雄)

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